グリーフワークとは?

グリーフワークとは?グリーフワーク」は、別名「モーニングワーク」とも言います。
ワーク(work)は、「仕事(身体・精神両方)」のことです。
グリーフ(grief)は「深い悲しみ・悲嘆・悲痛」。
モーニング(mourning)は、朝ではなく、礼装のモーニングスーツの方で、この場合は「服喪・哀悼・喪服」というような意味です。

ですから、これを日本語に訳すと、「喪の仕事」「喪の作業」「悲嘆のプロセス」などとなります。

これは、自死遺族に限らず、大切な人との離別(死別だけでなく)や、心の支えとなっていたもの(例えば、仕事など)を失った時に、自然と始まる、立ち直るための心の動きのようなものです。
基本的に、無意識のうちに誰もが経験し、乗り越えてゆく過程です。

しかし、突然の事故や自死など、思ってもいなかったショックな出来事が起こった場合、グリーフワークが完了するまでに長い時間がかかり、時に、専門家(精神科医など)の助けが必要となってくる場合があります。
病死で、長いこと床に伏していた場合は、「もしかしたら死別するかもしれない」と、あらかじめ心の準備しておくこともできます。
ですが、大切な人の突然の死に直面すると、心の準備がないために、現実を受け入れられないまま、長い年月を過ごすことも考えられます。

グリーフワークには、一応、手順がありますが、それらは、順番に起こるわけではありません。
そして、順番どおりに進むものではありません。
いくつもの手順が同時に起こったり、手順の番号を飛ばしたり、また戻ったりということも、よくあることです。
そして、完了までにかかる時間も、人によって、数ヶ月から数十年と、かなりの幅があります。

自死遺族の場合、10年経って、まだショックから立ち直れずにいることも、まれではないのです。
ショックが大きすぎて、体調を崩して病気にかかったり、また、抑うつ状態が長引いて、精神科に通うようになることも、多くあります。

グリーフワークについて、これから書いていくことは、深い悲しみを抱えている、いろいろな方にも共通することですが、ここでは、おもに、自死遺族の方へ向けて書いていこうと思います。

以下に、いくつかのグリーフワークの過程を書きますが、重要なのは、これは「誰にでも起こる、正常な反応」だということです。
「まだ立ち直れない私は、どこかおかしいのではないか?」「そろそろ元気になるべきだ」といった不安や疑問は、持たなくてもいいのです。
この過程は、あくまで目安として書かれたものであり、人それぞれ、状況も違えば性格も違うように、過程が順序よく起こると決まったものではありませんし、完了までの時間に大きな幅が出てくるのは、さきほど述べたとおりです。
もしかしたら、数十年経っても、完了したという実感がわかず、苦しんでいる方も、いらっしゃるかもしれないのです。

ここで、あまりに辛いのに耐えきれず、精神科医に助けを求めるというのも、ごく普通の、正当なことです。
風邪をひけば内科医院へ行く、恋の悩みは友人に相談する。
自分自身で乗り越えなければとは、思わなくていいのです。
相手は、立場が違っているために、あなたの気持ちをすべて理解できるとは限りません。
でも、あなたに対して真剣に向き合い、理解しようとしてくれたなら、それだけでも、大きな助けとなるかもしれません。

そして、泣きたいと思った時には、そのままに、自然に泣いて下さい。
涙が出ない時には、無理に泣こうとしないでいいのです。

あなたの中にあるお気持ち、どれもが本当で、異常なことではありません。
「こんなことを考えてはいけないのでは?」とは、思わなくて大丈夫です。
人それぞれ、グリーフワークは進んでゆきます。
進めようと特に思わなくても、進んでゆきます。
ですから、あなたは、ご自分を認めてあげて下さい。
そして、辛い時には、いつでも、誰かに助けを求めて下さい。

精神科医で、グリーフワークに積極的に取り組んでいる平山正実氏は、「悲嘆のプロセス」として以下の4段階を挙げています。

  1. ショックの段階
    感覚の麻痺、涙が出ない、感情が湧かない、足が地につかない。
    何も考えられず、混乱状態の中、何にも集中できない。
    日常生活の簡単なこと(食べる・眠るなど)さえもできない状態。
  2. 怒りの段階
    悲しみ、罪責感、怒り、責任転嫁。
    深い悲しみとともに、故人・周囲の人を責める気持ち、そう思ってしまう自分を責める気持ちが同時にある。
    故人との思い出にふけり、現実を認められない。
    幻想空想と現実の区別がつかない状態。
  3. 抑うつの段階
    絶望感、深い抑うつ、空虚感、無表情、希死念慮
    周囲のあらゆるものへの関心を失い、自分は価値のない人間だと思ってしまう。
    適応能力に欠け、外出せず、引きこもりのような状態。
  4. 立ち直りの段階
    徐々にエネルギーが出て、新しい希望が見えてくる。
    周囲との関わりを大切にしようと思えるようになる。
    故人の死の現実を認められるようになる状態。

ジョン・ボウルビィという、母子間の絆研究の開拓者でもある精神分析家は、流産を経験した母親が立ち直るプロセスという観点から、「喪の仕事」として以下の4段階を挙げています。

  1. 感情麻痺の時期(ショック、否認)
    ショックのあまりに、実感がわかない。
    何も考えることができず、むしろ「冷静だ」と周囲から見られることもある。
    頭の中が真っ白になり、現実と夢との区別がつかないような状態。
  2. 思慕と探索の時期(悲しみ、探索行動)
    信じられない思いや受け入れられない気持ちの中で、故人がいるかのように振舞うことがある。
    激しく泣く場合や、じっと悲しみをこらえる場合など、人によってさまざまである。
    故人への愛と悲しみ、または怒りが、心の中に溢れている状態。
  3. 混乱と絶望の時期(怒り、恨み)
    うすうす、故人がもういないと自覚しはじめるが、まだ、疑いの気持ちが消えない。
    「なぜ死んだのか?」「なぜ私だけが不幸なのか?」などという思いが交錯する。
    無意識に犯人探しをしてしまい、その相手を憎んだり、幸せそうに見える通りすがりの人に、恨みの気持ちを持ったりする状態。
  4. 脱愛着と再起の時期(諦め、受け入れ)
    ようやく、実感として、死別を受け入れることができる。
    故人のことを思い出しても、動揺することが少なくなり、落ち着いていられる状態。

哲学者アルフォンス・デーケンは、「悲しみのプロセス」として以下の12段階を挙げています。
ここでは、項目名が具体的でわかりやすいため、項目名だけご紹介します。

  1. 精神的打撃と麻痺状態
  2. 否認
  3. パニック
  4. 怒りと不当感
  5. 敵意と恨み
  6. 罪の意識
  7. 空想形成・幻想
  8. 孤独感と抑うつ
  9. 精神的混乱と無関心
  10. あきらめ-受容
  11. 新しい希望
  12. 立ち直りの段階

いずれも、言葉や順序は多少違うものの、おおよそ概要は同じだと思います。
そして、これらに共通しているのは、「故人の死を受け入れられるのは、かなり後になってから」ということではないでしょうか?
多くの人が、「本当はまだ生きているのでは?」という、小さな希望を持ちながら、現実を受け入れられずに、長く苦しい時を味わっていると言えるかと思います。

これもまた、ごく自然な反応なのです。

次からは、平山正実氏の「悲嘆のプロセス」を基に、基本的な内容と、私の場合はどうだったかということについて、書いていきたいと思います。